それはもう、衝動的に

 

今、何しているんだろう。授業中かな。今日はバイト休みって言ってたよな。塾終わったら家行ってもいいかな。聞いてみるか。

「やまだっ!!!」

「!!!」

授業と授業の合間の中休み。鼓膜が破けるんじゃないかというくらい大きな声で名前を呼ばれて目を瞑る。

「……なに」

「お前はほんといつもボーッとしてるよな。彼女のことでも考えてた?」

ニヒヒと不愉快な笑みを浮かべる友人たちが俺の机の周りを囲んでいた。別に茜さんのことを隠すつもりもなかったが、岡本に茜さんを会わせてからというものの、クラスメイトからの質問という名のからかいが休み時間の度に行われていた。

「この顔で女に興味ないなんてスカした奴だなぁとは思ってたけどさ〜」

「お前もちゃんと男だったんだな」

「おいっ!俺なんてこの間の失恋の傷がまだ癒えてないんだからなっ!」

騒がしすぎる。中学の頃と違い進学校ということもあり、授業中は静かで快適に過ごせるんだが。休み時間は中学も今も何ら変わりなく、騒がしい奴は騒がしかった。

「なぁ……」

「?」

一人がキョロキョロと周囲を見回して、顔を近づけてくると小さな声で囁いた。

「お前の彼女、年上なんだって?」

「そうだけど」

ウオオオオオー!とよくわからない奇声を上げられる。茜さんが年上だから、一体何だと言うのだ。

「年上ってやっぱりいいの?」

「なにが?」

「はぐらかすなよ〜」

回りくどい言い方をされてもわからない。年上だからといって、茜さんは俺よりも性格が大人っぽいわけではない。むしろ幼いほうだろう。

「お姉さんの色気、的なさ」

「色気…」

「そう!下着姿とか見たことないのかよ?」

「ないけど」

一体何を言い出すかと思えば。どうやったら下着を見れるシチュエーションになるのか、逆に教えてほしいくらいだ。

「何でだよ〜お姉さんと付き合ってるのに!?」

「もういいだろ」

「タメとは絶対違う魅力があるに決まってる!」

年上だから、じゃない。俺にとっては茜さんだから、好きになったんだ。触れたい、触れられたいとと思うのも茜さんだけ。

「前の彼女はさ」

「(まだ続くのか……)」

「こういうスタンダードなやつだったのね」

スマホの画面に映し出された下着姿の女を指差しながら友人の話は続く。

「でも年上ならこういうやつなのかなって!」

次に表示されたのは面積の小さい下着姿の女。次も面積が小さく紐で結ばれただけの下着。

「なにがいいの……」

「おまっ!やっぱり男じゃないな!」

はぁ…と溜め息を吐いても、スマホで様々な画像を見せられ続ける。どんな画像を見せられても何も感じない俺に、岡本がボソッと耳打ちする。

「この画像を茜さんだと思ったら?」

「は?」

 

* * *

 

「山田ってば!」

目の前に面積の小さい下着を身に纏った茜さんが俺の顔を覗き込んできて思わずひっくり返る。否、そんな格好などするはずはなく、いつものルームウェア姿で心配そうに俺を見ていた。

昼間のクラスメイトたちとの会話のせいで、その後の授業も塾もどのように過ぎたか虚覚えだった。

「いや、別になんでもないです」

「ならいいんだけどさ」

テレビを見ても、ゲームをしても脳内で勝手に合成した茜さんの姿がチラつく。モコモコに包まれたルームウェアの下にはーーー。

雑念を振り払うように隣に座る茜さんの肩を抱くと、ニコニコと笑顔で寄り添ってくる姿も可愛い。髪に顔を埋めると、風呂上がりの良い香りが鼻いっぱいに広がり胸が疼く。

「ちょっと、そんなに匂い嗅がないで」

「大丈夫、良い匂いしますから」

「もう……」

しばらくするとスーッと寝息が聞こえてきた。茜さんの顔を確認すると、とても気持ち良さそうに眠っている。肩の手をそのままに膝の下に手を入れてベッドまで運ぶと、茜さんは寝返りを打って俺から背を向けて眠る。ルームウェアが少しずれて、白い背中が見えていた。その姿に釘付けになる。昼間から悶々としていた気持ちが更に加速するのを感じる。

ギシリ、とベッドの上に乗り上げ、茜さんの顔を覗き眠っていることを確認した。肌の見えている腰を少し撫でてから、ウェアの下に手をかけて引っ張ると、腰で固定されていて動かない。落ちないよう紐で結ばれていたからだ。

高鳴る気持ちで紐をスルリと解いていく。ちょっとだけだから、そう呟いて、俺は茜さんのルームウェアを下ろしてみた。それはもう、衝動的に。

 

 

 

一体なにが起こっているんだろう。

突然山田が塾帰りに寄ってくれて、いつも通り過ごして。抱き寄せられたからちょっとくっついてみたりしちゃって。それが心地よくていつの間にか眠ってしまったらしい。

ベッドが軋む音で意識が少しずつ覚醒し、手で腰を撫でられた時に、その冷たさに目を見開いた。いたずらしないで、と声を掛けようとしてすぐ、声を発することを止めた。グッとルームウェアのパンツを下に引っ張られたからだ。

(紐をちゃんと結んでてよかったぁぁぁ)

腰より下にウェアを下ろすことができず、いたずらはここで失敗に終わったはずだった。

「ちょっとだけ、だから」

今まで聞いたことのないような熱を帯びた声と、ウェアの紐に手を掛けられたことにパニック状態に陥る。

(えっ、止めるべき?止めていいの?なんて?)

(そんなに見たいなら早く言ってよ?)

(いやいやわかんない桃ちゃん助けて)

一本の紐をスルスルと引っ張られると、あっという間に腰へ固定されていた紐は緩んでしまった。今まで同じ部屋で過ごしても、こういった雰囲気になることはなかった。まだ付き合ってそこまで日も経っていなかったし、心の準備というものがーーー!

そんな私が起きているとは思いもしないだろう、山田の手によってルームウェアはずり落とされた。

「フッ……」

ーーーもしかして、鼻で笑われた?

笑われる要素なんてあったかな、そう思案してすぐに心当たりに直面する。私は今、毛糸のもこもこパンツを山田に曝け出していた。

言い訳をさせてほしい。山田が来ることが前もって決まっていたら、いわゆる勝負下着的なものを身に着けていたのだ。

『大人の女目指すなら下着も変えてかないと!』

『え、いいよいいよ!そういうことするかもわからないのに!』

『山田くんが興味ないわけないでしょ』

『そうかなぁ……』

こうして桃ちゃんに乗せられて新しい下着を買ってはいたし、紐パンなんて自分史上めちゃくちゃ背伸びしていた。山田と会うときは、無いとは言いつつも少し期待を込めてそれを穿いていた。なのに。

まさか見られたのが冬には欠かせないもこもこパンツだったなんて。山田から鼻で笑われたこともあり、今更起き上がることもできない。なぜ眠りから覚めてしまったんだろう。せめて知らなければ。

しかし、悩む私の心に気づかない山田は、一向にルームウェアが元の位置に戻そうとはしなかった。いくらもこもこパンツとは言え、太腿から下は素肌なわけだし、ダサいパンツを穿いていることとダブルで恥ずかしいから早く上げてほしいのに。

山田は一体何がしたいんだろう、と考えたところで、更に先程以上の衝撃が走る。

山田の手でパンツを撫でられている。いや、お尻を撫でられてと言ったほうが正しいのだろうか。初めて見るもこもこパンツが気になるのか、実は女の身体に興味があるのか。それはもう、何度も。

「……可愛すぎかよ」

ボソッと呟いた山田の声が耳に届いて、カァっと顔に熱が集まっていく。先ほどからむき出しになっている腰に突然キスされると、驚いて腰が少し跳ねてしまう。そんな私にはお構い無しで、腰へのキスは繰り返されるわ、手はもこもこパンツから太腿へ移動するわで、心臓の音が激しく鳴り響いていた。

「茜さん」

そして、今度はハッキリと聞こえてくる山田の声。

「起きてるんでしょ?」

「……はぃ。な、何してるの?」

「その…」

珍しく視線を外して口籠る山田。それもそうだ、山田は私が眠っている間にルームウェアを脱がせたのだから。

「あっ!暑いから私脱いじゃった!?」

山田も男の子なんだなと思ったら、問い詰めるのは可哀想かなと思ってしまった。

「いや、俺が脱がしました」

(なんでよ!!せっかく逃げ道作ってあげたのに!!)

「な、なんでー?」

「脱がせたかったからです」

「へ?」

「茜さんのパンツがどうしてもみ」

「◎△$♪×¥●&%#?!」

言葉にならない悲鳴で山田から発せられた恥ずかしすぎる言葉を遮る。真顔で何を言い出すんだ。

そこからは何度尋ねても同じ答えの繰り返しで。何度聞くんだと山田から逆ギレされそうになったところで、私も遂に頭がおかしくなってきていた。

「このもこもこパンツ、いつもは穿かないの」

「へえ」

「いつも穿いてるやつ、見せてあげよっか?」

発言してすぐ、顔が真っ赤なるのがわかった。

「いや、いいです」

「…!?」

山田の言動が理解できず頭を抱えていると、腕を引かれ身体を起こされ、山田の膝の上へと向かい合わせに乗せられる。そして、再びもこもこパンツ越しにお尻を撫でられる。

またフッと鼻で笑われたので、涙目になりながら「なにっ!?」と尋ねると、山田は優しく笑った。

「茜さんが穿いてたら何でも好きだなと思って」

「なんでそんな恥ずかしげもなく……」

肩口に埋めた顔を上に向けられると、熱い視線と絡み合ってすぐに顔が落とされる。何度も何度も唇を重ねながら、山田の左手がもこもこパンツから離れることはなかった。

 

おわり

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この作品書いた日付が12/13となっていて、まだ45話後くらいなんですよね。最近ノーパンノーパン騒いでたけどこの頃からパンツネタ好きだったのかと自分で恥ずかしくなりました。

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