もう眠たいんですか?

 

「よしっ」

昨日自宅へ届いたこたつテーブルに、干したふとんをセットする。早速スイッチをオンすると、少しずつ下半身から温まっていき、心地よさに眠気が襲ってくる。このまま眠ってもいいのだが、こたつは一度入ったら抜け出せない魅惑アイテムなので、この後の予定も考慮して起き上がることにした。

洗濯物は取り込んで全てクローゼットの中へしまい、床に置いてあった雑誌類などは全て片付けて、掃除機もかけた。5人で過ごすスペースは確保できたはずだ。

今日、12月24日はギルドメンバーの山田、瑛太くん、瑠奈ちゃん、そして私の親友である桃ちゃんとクリスマスパーティーと称した鍋パーティーを行う予定だ。鴨田さんは別で約束があったらしく、残念ながら不参加だった。皆は今頃買い出し中で、あと一時間後くらいにはこの家に到着するだろう。鍋の準備をしていると、傍に置いていたスマホのバイブレーションが鳴り響く。

“何飲みますか?”

用件だけの簡素な文を打ってきたのは山田だった。家にビールはあるからみんなが好きなもの買ってきて、と送信する。既読がついたことを確認すると鍋の準備に戻った。

今日みんなを誘ったのは私だった。先日山田から好きだと言われて、クリスマスも山田と一緒に過ごしたいと思うのが乙女心というもの。でもあの出来事以来、山田と素面の状態で対面しておらず、どう接したらいいか分からなかった。とはいえ、クリスマスに好きな人と過ごしたいという気持ちは抑えられず、みんなを利用した形になってしまったがクリスマスパーティーをしたいとグループチャットで呟いたのだった。

ピンポーン、とインターフォンが鳴り、みんなの到着が知らされた。ドアを開けると、ニコニコ顔の瑛太くんと桃ちゃんに敵意むき出しの瑠奈ちゃん、そして一番後ろにはいつも通り澄まし顔の山田―――。山田と目が合うと心臓の音がみんなに聞こえてしまうんじゃないかというほどバクバクと鳴り響き、頬まで上気している気がして急いで目を逸らす。

「あれ、桃ちゃん遅れるって言ってたのに」

「こっちの方が楽しそうだったから、早く切り上げてきちゃった。ね、瑛太さん」

「ちょっと!お兄ちゃんに馴れ馴れしくしないで!」

これはある意味で楽しい会になりそうだ、とほくそ笑む。みんなを部屋へと案内すると、おろしたてのこたつへと入ってもらい、買い出しに行ってもらった品々を冷蔵庫の中へと入れていく。各々はジュースを飲みながら楽しそうに会話をしていて、私は既に準備をしていた鍋に火を点けるとカセットコンロや器などを用意した。

「おまたせ〜」

「わぁ!お鍋!茜さん美味しそうっ」

「あかねっち最高♡」

みんなが喜んでくれると私まで嬉しくなるな、と考えて席に座ろうとする。が、正方形のこたつのそれぞれの位置に既に4人座っていて、私はどこかへ入れてもらわなければいけなかった。うーん、と悩み、桃ちゃんか瑠奈ちゃんに入れてもらおうとした。

「あかねっちどこ座る?秋斗のところがテレビも一番見やすくていいかな?♡」

確信犯な発言をしてきた瑛太くんを初め、実は桃ちゃんにもまだ山田から告白されたことを伝えられていなかった。機会を伺っている内にあっという間に今日を迎えてしまっていたのだ。

「あ、でも狭いから、桃ちゃんのところに……」

「茜さん!瑠奈のところ!!!」

目は泳いでいなかっただろうか。なんだ狭いって、細身の山田には無縁の言葉ではないか。これでは山田への避け方が不自然すぎる。そんな自身の発言への後悔が止まらない。しかし気にしているのは私だけだったようだ。瑠奈ちゃんに半分詰めてもらい、席へ座ると鍋パーティーが開始された。

「茜!酒飲もう!酒!」

「ちょっとまってて!」

「え!ちょっと茜さん!お酒飲んじゃダメ!」

冷蔵庫に入ったビールを取りに行き桃ちゃんへ渡すと、桃ちゃんは瑛太くんのグラスにもビールを注いで飲酒を強要した。なぜか瑠奈ちゃんからはお酒を飲むことを大反対されたが、そんなに飲まないからとなだめてビールを開ける。少し飲むと気分が良くなって、可愛い瑠奈ちゃんにくっつくととても嫌そうな顔で全身を引き剥がされてしまう。

「茜さんイヤ!瑠奈から離れて!山田さんと一緒に座って!」

隣の山田の席へと追いやられると、山田は少し端に寄ってくれたので空いたスペースに収まることにする。少し酔い始めたところだったのに、急に思考がはっきりし始めた。腕が触れる距離に山田がいることに、胸の高鳴りが抑えられない。

「瑠奈いいぞ〜♡」

「やるわね小娘」

ニヤニヤと見つめてくる視線に耐えきれず、缶ビールを一本、二本と空けていく。三本目を取りに行こうと立ち上がろうとしたとき、隣から右手を捕まれ静止させられる。

「茜さん、飲みすぎ」

グラスにお茶を注がれると、両手でグラスを握らされる。至近距離で見つめてくる山田に頭がクラクラする。

「一回お茶飲んで休憩してください」

グラスの中身を一気に飲み干す。お茶の味はしなかった。すぐに山田からグラスを取り上げられ、テーブルの上に戻される。

しばらくクラクラしていると、隣に座る山田から背面に腕を回されて、腰を支えられていた。こたつがあるから、みんなには見えていないだろう。山田に触れている身体の右側と、山田の手が沿えられている左側の腰がどんどん熱くなっていくのがわかった。どうしようもなくドキドキする。こちとらこんなに緊張させられているのに、何とも思ってなさそうな澄ました横顔でみんなと会話している山田が憎らしかった。

出口に近い位置のため、トイレで席を立つ人からは丸見えでみんなに見られていたのだが、私はそんなことにも気づかず、終始添えられた手に全意識が注がれていた。

クリスマスらしくケーキを食べて、瑛太くんがみんなにプレゼントを用意してくれて、夕方から終電間際まで騒ぎ倒して、クリスマスパーティーはお開きになった。後から騒音の苦情が入らないかヒヤヒヤするほど盛り上がった。

「「「おじゃましました〜」」」

「また来てね」

「あれ?秋斗帰らないの?」

そう尋ねた瑛太くんの問いかけで、初めて3人が玄関で靴を履く中、私と一緒にその光景を山田が見つめていることに気がつく。

「俺家近いから、片付け手伝って帰ります」

「あっ……頼んだぞ♡あかねっち、任せちゃってごめんね♡」

瑛太くんがそう言うと3人はそそくさと部屋から出ていってしまった。大方の片付けはみんながしてくれたので、ほとんど今日やることはないのだが、思わぬ二人の時間に緊張して、振り返っても山田の顔を見ることができない。

「疲れたんでもう少しここに居てもいいですか?ちょっと休んだら帰るんで」

「あ……酔っ払いの相手は疲れちゃうよね」

二人で使うには広いこたつにお菓子やお茶を用意して並べる。先ほどまで座っていた場所に山田は座っていたが、再びその隣に座る勇気はなかった。山田の向かいに座ってお茶を飲む。当たり障りもないゲームの話や、最近何をしていたかなど山田を質問攻めしていると、私は次第にいつもの調子を取り戻していき、会話を楽しむことができた。

そろそろクリスマスへと日が変わる頃、山田がこたつから立ち上がったので、帰る時間が迫ってきていることに悲しくなる。第一印象が最悪だったこの年下の男のことを、いつからこんなに好きになってしまったんだろう。

この整った顔立ちに魅せられる人も多いみたいだけど、山田の魅力は顔じゃなくて、無愛想な態度とは異なり人の気持ちに寄り添おうとする優しい一面を持つというギャップにあるのかな、と山田の顔を見つめながらテーブルに頬づえをついてボーッと考える。みんなが帰ってしまったあとの静けさを一人で過ごすには寂しいものがあったから、山田は私のその気持ちを察してくれたのかもしれない。

「もう眠たいんですか?」

「うん……そうだね。こたつはやっぱり眠たくなるよね…」

その場で体勢を崩し寝そべると、本当にこたつの温かさが心地よくて、瞼が重たくなる。少し目を閉じると足音が近づいてきて、布団を捲られ隣に気配を感じる。山田が隣に入ってきた。入ってきた―――!?

「!?!?!?」

目を開けると山田が隣で寝そべりながら頬づえをついて私のほうを見ているではないか。こたつはそんなに大きいものではない。目の前には山田の口元。身体は触れそうで触れない距離を保っていた。

触れたい、でも恥ずかしいという二つの気持ちのせめぎ合いの中、テーブルの上に置きっぱなしになっていたスマホが鳴り身体がビクッと跳ねる。気を紛らわすように慌ててスマホを手に取り、山田から顔を逸してうつ伏せになると、相手は瑛太くんからで今日の写真が大量に送られてきていた。

「瑛太くんから、今日の写真が送られてきたよ」

「ふーん」

山田に画面を見せるようにスマホを寄せると、私と肩を並べるように山田もうつ伏せになった。触れた肩が熱い。こたつの温度が高すぎるのかってくらい熱い。意識は肩に集中してしまっていたが、写真を一枚一枚見ていく。

「あっ、見てこの写真!私半目でひどい顔」

してる、と山田に伝えようとして、山田の方を向くと山田も私のほうを見て微笑んでいた。その顔があまりにも優しくて、胸がぎゅんっと音を立てて締め付けられるのを感じた。いつもは見せない、特別な表情に戸惑っていると、顔が近づいてきてキスをされた。

カタっと右手に持っていたスマホが音を立てて手から落ちる。目を閉じた整った顔立ちに、私は目を瞑る事もできずに凝視する。少し触れるように重なった唇が離れると、目を開けた山田と視線が絡まり合う。

「俺が好きだって言ったこと、やっぱり忘れちゃいました?」

「あ……え……と忘れて……ないです……」

絶対に今自分の顔は茹でだこのように赤くなっているはずだ。こんなの赤くならないほうがおかしい。こんな優しく微笑まれてキスなんかされたら心臓が―――。

「もっとしてもいいですか?」

「え……よ、よろこんで」

答えが合っていたかはわからないが、答えてすぐ左手を取られ、身体を仰向けに転がされる。そのまま左手を握られながら、覆いかぶさられると再び顔が近づいてくる。先ほどよりも強く触れられた唇の感触に頭が真っ白になり何も考えられなくなる。

狭いこたつの中での密着に、汗まで出てくる始末。一方でキスをしてても涼し気な顔をした山田を憎たらしく思う。

死んでしまうのではないかと思うほど心臓が音を立てるが、それ以上にもっともっと山田と触れ合いたくて、求めてしまう。

山田に拘束されていた左手を無理やり剥がして、両腕を山田の首に回してゼロに近い距離を更に引き寄せてゼロにして、深く深くキスをした。山田は一瞬目を見開いて驚いたような素振りを見せたが、すぐに目を閉じて応じてくれた。

剥がした山田の右手は私の頭上に乗せられ、キスをしている間ずっと指で私の髪を梳かしていた。山田から与えられる全てが心地よかった。

どれくらいの時間をそうしていたかは分からない。長い時間だったような気もするし、終わってみたらあっという間な気もする。そろそろヤバいんで帰ります、という山田を玄関まで見送る。

「それじゃあ、また」

そう言って扉を開けようと背を向けた山田に抱きつく。胸に手を回すと、気持ち心拍数が早いような気がして、フフッと笑えるくらいにはやっと少し余裕が生まれた。

「今度、どこか二人で遊びに行こう」

「行きたいとことかあるんですか?」

少し会話をして山田は部屋を出ていった。扉を閉めてこたつを見ると、先ほどの山田を思い出してしまい、ベッドにダイブして悶絶する。今日は眠れそうにもないや、と瑛太くんから貰った写真を眺めて、今日という一日を振り返ることにした。

 

end.

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