14年の月日が重ねた愛情

107話のシロおじ視点妄想

重い瞼を開くと、自宅に劣らない装飾の数々が視界に入り、ぼんやりとした頭を急いで働かせた。最後の記憶を辿ると、赤い目を光らせた悪魔が―――。

身の危険を感じて飛び起きてすぐ、同時に視界へ入った二つの存在に、反射的に小柄な娘を自分の元へと引き寄せる。その勢いで床へと大きな音を立てて散らばった何かの瓶の破片。一番先の鋭い破片を急いで手に取り、敵へと向けた。果たしてこれが武器となるのか、その可能性はかなり低いものだったが、目を覚ました敵の気を一瞬引くことはできるだろう。その隙にこの腕の中にいる大切な、大切な娘だけでも。

「ジェニット……早くこの部屋を出るんだ。私の傍にいてはいけない」

蘇ってくる記憶の数々。思うように動かない身体と意志。またいつ自由が効かなくなるかさえも分からない恐怖。何より、大切なものを自分の手で傷つけてしまうかもしれないことに恐怖を感じた。ふらつく足元を何とか奮い立たせて、ジェニットを外へ出そうとするが、心配性で優しい娘はなかなか私を置いて出て行こうとはしてくれない。お願いだから、最後くらい私の言うことを聞いてはくれないだろうか。しかし、その願いは届かずに恐ろしい声が部屋に響き渡る。

「お前! 何をしている!?」

目を覚ましてしまった先皇帝に、一足遅かったかという後悔をする間もなく、必死でジェニットの身体を自分の中へと隠した。この子だけは、この子にだけは手出しをさせてなるものか。

いずれ本当の親の元へと返してあげるのだと思っていた。しかし、親であれば誰でも良いわけではない。玉座奪還のためなら娘すら利用しようとする、そんな親の元へこの子を渡すために育てたわけではないのだ。大切に、大切に育てたのは、姫となり今より良い暮らしをして、この世の誰よりも幸せに暮らしてほしかったから。あの全てを手にしたアタナシア姫よりも。

「ジェニット……」

突然視界がぐらつき、薄れゆく意識の中で最後に思ったことは、これまでの自分の考えの否定だった。ジェニットをアルフィアス家の子供として育て、イゼキエルと共に親としての愛情を注いであげるべきだったのではないか、という後悔だ。

『私はみんなの家族じゃないの?』

『お前は私たちよりももっと高貴な……オベリア帝国の姫なんだよ』

『どうして家族なのに一緒にいてくれないの?』

『皇帝はまだお前のことを知らないんだ』

『いつ一緒に暮らせるの?私と……おじさんは?』

幼い子供に家族という関係から一線を引いたことは、酷なことだったと今更ながら思う。ジェニットが悪意を持つ父親に心を開いてしまったのは、当然のことだったのかもしれない。

***

再び目が覚めると、今度はベットに一人で横になっていた。辺りを見回すと、先ほどまでいたジェニットも、先皇帝も姿を消していた。まさかどこかへ連れ去られてしまったのでは、と急ぎ立ち上がると、物音を聞きつけたメイドが傍へ駆け寄ってくる。

「アルフィアス公爵、まだ安静にしなければと魔法使い様が……」

「ジェニットは! ジェニットはどこにいる!」

ジェニットの安否が気になり落ち着いてなどいられない。静止するメイドを振り払い、覚束ない足取りで部屋を出る。しかし自力して立つことが難しく、壁に重心を預けながら一歩ずつ足を進めると、そんな私を見かねたのかメイドが足早に駆けていった。

「姫様!アルフィアス公爵がマグリタ嬢をお探しで……」

メイドの声に、ジェニットが傍にいることを確信した。早く、顔を見て安心したかった。いつもの太陽のような笑顔を見せてほしかった。先皇帝が生きていたことなど、危害を加えようとしていたことなど夢だったのだと、早くアルフィアス邸へ帰ろうと笑うジェニットの姿が―――。

「ジェニット!」

傷一つない娘は、昔見せた屈託のない笑顔を見せてはくれなかった。なぜか宝石眼に涙をいっぱい溢れさせて駆け寄ってくる。反射的に抱きしめると、その成長の早さを今更ながらに実感して驚いた。少し前まで赤ん坊だった気がするのに。もうこの子を引き取って14年もの月日を一緒に過ごしてきたんだなと、涙が込み上げてきた。

『陛下に他の王子や姫様がいらっしゃっても今と同じように大切にしてくださるでしょう』

『そんなことはない。あの子が二人にならない限り』

いつだか皇帝に向かって問いかけた答えが頭に木霊した。そう、この子はイゼキエルと同じ、私にとって唯一無二の娘なのだ。代わりの存在など、この世に一人もいるはずがなかった。

 

とか捏造してみる。

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